RCエンジン新世紀
模型ユニフローエンジンの可能性を求めて 古崎仁一
はじめに
最近のR/C航空機用動力の発達には目を見張るものがあります。
中でも模型ターボジェットエンジンはその筆頭と言えましょう。しかしながら、実機とは
別な方向にある模型航空機の分野では航空の楽しみと言う観点からいってプロペラ
機が役立たずであるとは誰も思わないでありましょう。
現在市場に出回っているレシプロエンジンは2ストローク、4ストロークを問はず、
私たちに模型の楽しみを与えてくれると言う意味で十分に高性能なのですが、
実機バイクのトレンドが高性能一辺倒からライダーの好みに合わせた個性化に移行
しているのと同様に、人の感覚にアピールする設計のモデルが出現していることを興味深く思います。
今回紹介する模型ユニフローエンジンもそのような潮流にあるものといえますが、
実機ユニフロー機関は歴史的にエポックを画した型式であるばかりか、一部では現在も
活躍している実力派です。
実機ユニフロー
ユニフローとはシリンダー内のガスの流れが一方通行となるエンジンの総称で、第1図のように様々な型式があります。いずれも2ストローク・エンジンです。
第1図-Aのユンカース式対向ピストン
ディーゼルは航空機用として唯一、成功した型式ですが、現在では第1図-Bの双ピストン型
と同じく現用機関としては存在していません。
第1図-Cの頭上弁型2ストローク・ディーゼルは、
低速型(200rpm)が大型船舶用に、高速型(1600rpm)が鉄道車両や軍用車両用に使われています。
これらは、いずれも低速回転型ではありますが、排気タービンや静圧掃気ポンプ、インター
クーラーを備え、高い熱交換と低燃費を実現しています。
第1図
【さまざまな形式のユニフローエンジン】
矢印は混合気の流れを示す。ピストンが下がると、シリンダー・ライナーに開けられた
吸気口から新混合気が入り(吸入)、ピストンが上がって(圧縮、爆発)、再び下がる
(排気)。右側の2機種は排気に専用の排気バルブを用いる形式で、UNFL-1はこの
形式に属する。
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模型ユニフロー
資料によると対向ピストン型や頭上弁型の模型2ストローク単気筒エンジンが、かつて試作されたことはあるらしいのですが、その詳細なデータは見当たりません。
今回5〇プロダクトが開発したモデルは実機の分類で言うとポペット弁付2ストロークという型式でして、実車メーカー各社が競って開発しているレシプロエンジンの有望株です。
しかし、クランク軸と同速で回るカム軸と弁機構のアレンジが難しく5,000rpmを大きく超えるのは無理とされているものなのです。
UNFL-1
R/C模型用ユニフローエンジンとしては、おそらく世界初の市販モデルである本機は、
長野県坂城町で機械工場を経営している吉川芳秋氏が設計製作したもので、以下のスペックを
有しています。
2ストローク、SOHC,2バァルブ、ボア31mm、ストローク26.4mm、本体重量980gです。
第2図は、UNFL-1の内部構造で、これに従ってその作動を説明します。
クランク・シャフト@は、2個のボール・ベアリングに支えられており、後部に連結されたドラム・ローター兼カム・シャフト駆動軸Aを回します。シリンダー・ヘッド上にあるカム・シャフトBはタイミングベルトで駆動され、2個の排気弁Cを開閉します。
キャブレターDからの混合気は、通常の2ストローク・エンジンと同様、クランク室からシリンダー下部に開けられた給気孔Eを通ってシリンダー内に流入します。燃焼はストロークごとに行われ、排気は頭上にある排気弁から毎回排出されます。
したがって、シリンダー内のガスの流れは、クランクケースからヘッドに向かう一方通行となり、その結果、通常の2ストローク・ループ掃気エンジンに比べて、効率がよくなるのです。この場合、排気弁の開口期間はカムの形状で決定され、給気のタイミングは給気孔の高さで決まります。ただし、排気のタイミングはベルトがかかる位置をずらすことによって、ある程度変えることが可能です。
第2図は正立状態で描かれていますが、本来はシリンダー・ヘッドを下にして、倒立で使う設計がされています。理由は、頭上の排気弁は毎回開くので、キャブレターが閉じている低速運転時には、余分な燃料はただちに排出されて、クランク室に溜まることがないからです。
第2図
【UNFL-1の構造】
図はピストンが下がった状態。排気量20CC級の大型グロー・エンジンながら、
700rpmのアイドリングとジンガー製24×8ペラを4200rpmでまわす出力を持っている。
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(ラジコン技術2000年7月号掲載記事の続き)
1、頭上弁型ユニフローエンジンの特質
記事の中で述べたように、ユニフローエンジンは高速運転には適さないのですが、その理由は単にヴァルヴがサージングを起こすという機械的なものばかりでなく、この掃気方式特有の問題に起因しています。つまり、シリンダー内で急速燃焼した混合気はピストンに圧力を伝えた後は、直ちに機外へ排出されないと、次のサイクルに必要な新気を十分に取り込めません。理想をいえば、ピストンにはできるだけ長い期間圧力を加え続け、なおかつ瞬時に新気と入れ替えたいのですが、有効な掃気ポンプを持たない模型ユニフローエンジンでは、シリンダー内に層状掃気を作るのは容易な事では有りません。
UNFL-1に用いたポペット弁の特性として、開き始めの面積が小さいため排気の排出不良の傾向が見られます。これはタイミングの設定とは別な問題であるため、実機ユニフローエンジンでも設計の苦心が見られます。見たところそのポイントは弁の通路を大きくする事と、補機類の機能を向上させる事のようです。
対向ピストン型のユンカース-ユモ207ディーゼルエンジンは3000rpmで1000hpでしたが、これはこの種のエンジンとすれば最高速の部類でした。
2、マーリン航空エンジン
近年、ユニークな航空ディーゼルエンジンが開発されていた事を知りました。グランプリ出版社の「航空ピストンエンジン」という本によると、それはアメリカのインテック社が1984年に作った“Merlyn”という2ストローク、ユニフローディーゼルです。このエンジンはジェットエンジンの燃料で運転できるので、どこの空港でも給油できるというのです。4800rpmで650hp、DOHC、4ヴァルヴ排気弁を持ち、その馬力当たりの重量は0.363kg/hpと模型エンジンなみの高性能です。
また、同書によるとロシアではDN-200という対向ピストン型ディーゼルエンジンを開発中だそうで、こちらは200hp、3シリンダー6ピストンと、ユンカース-ユモ205の半分サイズです。このように、2ストロークディーゼル航空エンジンは決して過去のものではないのです。
また、レシプロ航空時代最後のエンジンのひとつであったネイピア-ノーマッドは、2ストローク水平対向12気筒ディーゼルコンパウンドエンジンで、ループ掃気ながらほぼ0.4kg/hpであった事をも思えば、21世紀に有るべき模型エンジンの形が見えてくるのではないでしょうか。
3、4ヴァルヴUNFL-1
DOHC4ヴァルヴ型シリンダーヘッドは今日の高性能自動車エンジンの代名詞ですが、模型ユニフローエンジンにとっても有効な手段の一つと考がえられるため、50プロダクトではその開発も進めています。近々図面を発表します。さらに、模型ユニフローディーゼルエンジンも考えています。
4、身近なユニフローエンジン
昭和30〜40年代にかけて現役だった日産UD(ユニフローディーゼル)を、大型バスで運行していた方の話を伺う事ができました。その話では、他のディーゼルエンジンよりパワーがあったとのことで、山間部の道路が多い長野県で使うにはまことにぐわい良かったそうです。一種の過給器付きエンジンですから標高の高い峠道では地力を発揮した事でしょう。しかしそのルーツ式送風機がよく故障したそうです。だいたい3万キロから5万キロほどでローターがすり減ってがたがになると同時にベアリングがクラッシュしたそうです。また、燃費が良くなかったという話もあります。
ところで、いよいよ2ストロユニフローディーゼルエンジンが路上に走り出しそうな気配です。それは、ダイハツ工業が開発した1000cc3気筒エンジンで昨年(99年)の東京モーターショウに出たそうです。このエンジンはチタン製4ヴァルヴ排気弁とターボ過給器を持ち、リッター33kmの低燃費だそうですが、発売時期は不明です。
―続く―
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