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50プロダクト 540インライン・ユニット
  280〜300ギヤダウン・ユニット

  文と写真: 才川知利氏 (小諸市)
ラジコン技術 2006年6月号に掲載

オルゴールや時計、コンピュータなどの精密機器メーカーがひしめく長野。そこでハイレベルなモデラーに支えられつつ、高品位なRC模型用デバイスを世に送り出しているのが50プロダクトだ。 数ある製品の中でも、同社の手がけるギヤダウン・ユニットは精度や堅牢さで電動プレーン愛好家に多くのファンを持つ。 ここでは、同社が放つ最新ギヤダウン・ユニットを紹介しよう
その1

電動パワーを有効に活かすノウハウ

採算度外視の開発秘話

 私の住所,長野県小諸市には「ホビーショッフとみおか」を根城?にする「コモロ・フライング・クラブ(KFC)」というクラブがありまして、毎週末マニアが集まってフライトを楽しんでいます。 うちのクラブは自画自賛のひいき目に見ても、けっこうレベルが高いようで、本格競技志向の方こそいませんが、へりがロールしながらオートロで降りようが、電動モグラが地対空ミサイルみたいに5秒で点になろうが、誰も驚きません。 やはり今までのベテラン各氏の指導の賜物と自負してはいますが、それだけにまあ「ロウルサイ」こと! あ−でもこ一でも喧喧諤諤とやっております。

 それはさておき、その小諸市からまあ30km程西側のところに、県内では工業地として有名な「坂城町」というところがありまして、ここに一軒の「超精密機械加工を得意とするラジコン飛行機が好きな」社長がおられます。 その名も「50プロダクト」。 精密加工された540クラスや400クラスのギヤダウン・ユニットを生産しているところです。
 また、電動だけでなく、エンジン関係にもスタッフがいますので、ユニフロー・エンジンなどの個性的な製品があります。 ここの社長は前述のとおり、「超精密機域加工を得意とするラジコン飛行機が好きな」人ですが…どこにも「エキスパート」とか、「ベテラン」の文字がありませんねえ〜。 腕前は、まあラダー機でも上空単独飛行は後ろで見ていないと危なくて…(あ〜あバラしちゃった)のレベルです。 ここまで書いたら、あとでケリ入れられそう…。
 ただし、機械効率とか精度とかはさすが本職で、惜しげもなく最高の素材を使ってくれます。 だいたい0.4モジュールの小歯数ピニオンの市販品にないからって、武器輸出監視に該当するような精密ギヤ製作機を数百万もかけて、ふつうは買わないと思うのですが、「いやあ〜効率考えると0.4モジュールを使いたいから、機機買っちゃった〜」って気軽に言うか〜?? ですから、ここのRC関係の製品は「八ッキリ言って赤字持ち出しギリギリ」です。 本業で頑張ったぷんをRCパーツとロボットのパーツにつぎ込んでいる感じで、私が経理担当なら絶対NGの経営ですね。
 そんな人がユーザーからの要望や自分のヒラメキで、作ることは作ります。ところが、それをテストする方法が分からない、機材もない…。 そこで、「お前が使って大丈夫なら世の中大丈夫だから」と、私に白羽の矢が立ったというわけです。


機械設計の常識はラジコンに通用しない?
 試作の前には当然ですが、レイアウトや部品強度、材料の選定を含めて設計が行われます。 現在はCADソフトがありますので、細かい寸法や部材の取合いもパソコンの画面上でできます。 ただし、そこは長年の経験と実績による職人のヒラメキみたいなものが、コンピューターの能力をはるかに超えることが多いようです。
 おおよそのレイアウトが決まり、材質と強度による部品の選定、作図となりますが、これまでいろいろとお手伝いした(壊しまくった)経験から言わせてもらえば、最初の製品は実際に使用するとだいたいは壊れます(写真1)!

写真1/試作品をいくつも作ってはテスト、テストの繰り返し。さて、どれが最終版?
 社長は「おかしいなあ〜」、「計算上では強度は大丈夫なんだけどな〜」、「これってすごく高い素材なのよ‥・トホホ」と嘆かれますが、私は容赦なく「壊れました〜!」。
 ラジコンの場合は、軽量化も大事な要素なので、必然的に設計はギリギリを狙う必要があります。 余裕寸法も、まず取ることはできません。 言い換えれば、最先端技術の固まりのようなジェット戦闘機と同じレベルの設計技術が要求されます。 ただし、あちらはボルト1本でン万円なんてものを使えますが、 まさかギヤ・ユニット1個で10万円とは…いきませんよね。
 また、経験から申し上げますと、ラジコンに使用した場合、その運動性の高さから想像以上のGが、アチコチの方向から設計の想定範囲を超えてかかっていると思われる場合が多く、結果一般的な機械設計の常識では通用しない部分があるようです。 やはり戦闘機レベルの技術が必要なのでしょう(私の本業は土木関係なので、これ以上の議論には参加できません。 お許しを‥・)。


目標設定とテスト・ベッドの選定

 私がギヤ・ユニットのテストをお手伝いする際に、勝手に自分で決めている事項は、目標の2割増しで入力して壊れなければ、目標をクリアしたと判断して大丈夫だろうということ。
 たとえば、540クラス・インライン・ユニット(仮称)は入力500Wでテストして、製品保障はその80%、400Wと目標を設定しました。 400Wといえば、リポ3セルで40A連続、馬力とすれば、0.53HP(25クラス)、まあ1.5kg程度の機体なら充分に元気良く、モグラ(モーター・グライダー)なら2kg程度までOKでしょう。

 テスト・ベッドの選定には注意が必要です。 とにかく最初はどこで壊れるか分かりません、と申しますか、良く壊れます。 たとえ1.5kgの機体でも、離陸直後のフルパワー時にギヤが「キュン!」となめてしまったらどうします? 機体は無事に、そのうえ、ユニットは壊れた状態を維持して手元に戻さなければなりません。
 足りない頭で思案の結果、手元にあった旧ルールのF5B機を選択しましたが、これは正解でした。 何たって2000W入力で世界選を戦ってきた機体です。 500W入力なんて、機体側とすれば楽勝です(テストする人間は別の話ね…)。 それと手投げ直後だろうが、水平全速飛行中だろうが、どこでユニットが壊れても、そこからはグライダーですから、安全に回収できました。
 隠れた強力な助っ人は、「FOXのキングコブラ3200」です。 メーカーでは安全を見て12C=38A連続表示ですが、実際のテストでは、10.2V x 55A=約560W以上を繰り返し使いましたし、最大では20Cの65Aも流しました。 それでもモグラ的に使う5〜10秒程度の放電を繰り返すパターンでは、真夏できえポッカリまでも暖まらず、安心して使用することができました。 さらに高放電時の電圧低下の少なさ(パンチカ)も特筆もので、軽量と相まって安全にテストを実施する陰の力になってくれました。
 テストの際こは、トラブルが発生するのはテスト対象のものだけ。 その他は健全な状態を維持できないと、トラブルの原因が特定できませんので、機材の選定はとても重要です。


●お得意の脱線−その1

 よく「地上で多少で週負荷でも、上空にいけば、負荷が減るから大丈夫」とか言われます。八ッキリ申し上げますが、これは私の経験から言えばウソです。 地上で何回も回して「わ〜い、500W入力達成〜!」と喜んで、手投げして5秒後に「キュン! ハイ、壊れました〜」を何度となく経験しました。 特に大入力、強ピッチの場合、地上や手投げ直後は対気速度が小さいためにプロペラはスリップして、いわば空回りしているようです。 手投げ後にある程度速度が上がって、プロペラのピッチと速度から、しっかりプロペラが空気を噛むようになった時点が本当の最大負荷で、モグラなら手投げや再パワーON後3〜5秒程度、パイロン機ならターン後水平に戻って加速し始める時期が危険領域です。
 新ユニットのテストでも、この魔の5秒間に数え切れないほど壊しまくりました。 お陰さま?で緊急着陸は上手になりましたが、みなさんも電動では事前に最低でも入力A数を確認して、コントローラーや電池の能力を決して超えないようにしてください。 繰り返しますが、上空では負荷が減るか5、地上のセットは多少過負荷でも大丈夫、というのはウソです!

その2へつづく

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